てくてくわくわく 街道ウォーク

週末の東海道てくてく歩きのブログです!

弥次さん喜多さんを追いかけて 神奈川宿

 『東海道中膝栗毛岩波文庫版で、弥二さん喜多さんを追いかけます! そものもの旅の始まりを説明した「発端」は、ちょっと込み入っているので、またいつかということで(大まかには昨日の少年少女版の現代文でつかんだので)、次回のウォークの出発点の神奈川宿まで、ひとっとびです!

 

 ここで面白いのは、あの広重さんの浮世絵さながらの情景が書かれていることです。「浮世絵ウォーク 神奈川②」でも一部引用しましたが、もう少し物語世界に入ってみましょう。

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夫よりふたりとも、馬をおりてたどり行ほどに金川の台に来る。ここは片側に茶店軒をならべ、いづれも座敷二階造、欄干つきの廊下、桟などわたして、浪うちぎはの景色いたつてよし

 このくだりを読んだ読者は、ほうっとため息をついて、「あー、いつか自分も行ってみたいなぁ」と思ったことでしょうね。だって、欄干のついた海の見える二階のお座敷ですよ! 私も行ってみたいわ。十返舎一九さん、広重さんの「東海道五十三次」の神奈川宿の絵、たぶん意識していますよね。

 とここで、直球のまじめな文章で読者にため息をつかせてから、一気に悪ふざけ的なトーンになるからおかしい。お得意のパターンとも言えますが。

ちややのおんなかどに立て「おやすみなさいやァせ。あったかな冷飯もございやァす。煮たての肴のさめたのもございやァす。そばのふといのをあがりやァせ。うどんのおつきなのもございやァす。お休みなさいやァせ

 「あったかな冷たいご飯」「煮立ての冷めた肴」なんてさかさまであり得ないし、「そばの太いの」は絶対まずい! 「うどんの大きなの」ってなんでしょね。めちゃめちゃなせりふ、茶屋の女の人が言ってるの? ここ、十返舎一九さんがしゃべっていますよね!

 めちゃくちゃな口上ですが、弥次さん・喜多さん、茶屋で一休みをすることにします。・・・と注文を取りに来たのはかわいい娘。二人が上機嫌で焼き魚を注文すると、娘は塩焼きの鯵をあたためて持ってきます・・・ えっ、焼き立てじゃないの? 「あたためて」ってことは今でいうレンジでチン? どことは言いませんが、ファミレス的な? それでも二人は「おまえの焼いた鯵ならうまかろう」と受け取るのですが、なぜか娘はフンと鼻で笑って、表の呼び込みに戻ってしまいます。なんかあやしいぞ。

 なんとなんとお魚は、腐っていたのです! そんなぁ。

 今だったら、お客はクレーム、店長が飛んできて平謝りも平謝りですが、弥次さん・喜多さん、「こりゃだまされた」と歌を詠みます。どこがダジャレか、わかりますか?

ござったと 見ゆる目もとの おさかなは さてはむすめが やきくさったか(弥次郎)

味そうに(うまそうに) 見ゆるむすめに 油断すな きやつが焼いたる あぢのわるさに(喜多八)

  「ござった」は「腐った」という意味です。「やきくさったか」は「やきゃァがったか」。「焼きやがったか」と「だましやがったか」の二つの意味をかけています。

 喜多さんの歌は、「かわいい娘に油断するなよ。あいつが焼いた鯵は、味が悪かったぜ!」ってとこですね。鯵と味をかけています。

 ごちゃごちゃ言わずに笑いに変えて、潔く店を出る二人。こんな人の好さが、人気の秘密なんでしょうね。

 

 『東海道中膝栗毛岩波書店(文庫版 黄色)より引用しています。

一部、旧漢字に変換できない文字は、新しい字体で表記しています。

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文庫本、字が小さいので、虫眼鏡つきです・・・